“スキ、キライ”  『好きで10のお題』より
 


六月に入ると春季大会も佳境に入り、
東京エリアではトーナメントの頂上戦、
関東大会の決勝戦へとなだれ込む。
全国大会にあたる“クリスマスボウル”に続く本戦は秋だとはいえ、
こちらだって重要な前哨戦。
他チームにどんな新人が入ったのか、
即戦力として使える駒か。
頼もしい先輩諸氏が抜けた後、
チームカラーはどう変わったか…などなどを、
お互いに探り合えもする場となるからで。

 『まあ、秋までにどうでもいじり直せる代物だがな。』

未熟な顔触れは叩き上げられようし、
もっとずば抜けた駒が伸びて来ないとも限らない。
なので、データとしてはあんまりアテにはならんがなと、
大学受験を控えて引退してった悪魔様が、
そんなこたぁ基本だ基本と、
こちらが困惑してしまうのが面白くて仕方がないと言わんばかりに、
高笑いしつつ言ってたのだけれど。

 「そんな言ってた人が、なのに、
  対戦相手のその後の様子を、
  きっちり偵察
(スカウティング)して来てくれたDVD、
  こっそり部室に置いといてくれたりするんですよね。」

ボクらが見てられないほど頼りないってのもあるんでしょうけれど、
そういうフォローをしてくれるのが優しいなぁって…と。
ちょっぴり照れたように話す小さな韋駄天くんの見上げた先には、

 「そうだな。」

何とも手短なお返事を返す、
きりりと冴えた風貌の大柄な青年のお顔があったりし。
同感だという主旨だけ伝わりゃいいという、
何とも愛想のない応対だけれど。
そんなお言いようを返された側の瀬那くんとしては、

 「えへへぇ…。////////

そうだねいい先輩さんだねと、
省略された(?)部分までもが きっちり聞こえているかのように、
含羞みに頬を染めての、嬉しそうなお顔になるばかり。
新生チームはあいにくと、
微妙に駒が足りなくての途中敗退しちゃったデビルバッツと違い、
中等部からの持ち上がりという、基礎は完璧なメンバーで、
さて今年はどのようなチームを組もうかと、
庄司監督が選抜淘汰を索中というホワイトナイツは、
この春の関東大会で初めての制覇を成し遂げたとか。
天敵だった神龍寺ナーガも、
金剛兄弟や一休が居残るという結構な陣営を組んで来たけれど。
それをいうなら王城もまた、
最強のラインバッカーと長身レシーバーさんが居残っていたのを軸にして、
攻守に満遍なく分厚い陣を敷いての激突。
王城勝利で幕を下ろしたのが…つい先週のお話で。

 「夏休みに入ったら即合宿なんでしょう?」

そこは泥門も同じだが、
昨年のようなアメリカ横断なんてな無茶はさすがに考えてはなくて。
それでも…あのね?
王城が多分ドイツの古城へ向かうように、
それぞれに学校があるところからは離れてしまうお互いだからね。
そやってあっちとこっちへ離れ離れになる前に、
お顔を忘れてしまわぬよう、
少し多めに逢っておきたい、一緒にいたいと、
ついつい思ってしまったセナくん。
夏休み前には期末考査があって、
それが終わったらもはやなし崩しに夏休みに入るから。
今を逃しちゃあいけないとばかり、

 『あのその、えとあの…ご都合がよろしければ、』
 『Q街でいいのか?』

どちらかのお家へ出向くという逢いようも、
とうに“初めての”をこなしている二人だが、
それだとどっちかが帰路につくときに寂しいから。
進さんはきっと小首を傾げて、平気だというお顔でいるのだろけど。
今頃一人で電車に乗ってるんだとか、そんなことを思ったら、
やっぱりセナくんの側は寂しくなってしまうのでと、

 ―― 同じほどの距離をお互いに帰ることにしましょうよ

そんな風な言いようにて押し切られての、
快速が停まる、毎度お馴染みのQ駅周辺にて、
ぶらぶらして過ごしましょうというおデートと相成って。

 「あ、ほら進さん。ユース・アメリカ選抜の最新映像ですって。」

スポーツ店の大画面ビューコーナーへと運んで、
海外配信のトピックス映像を観覧してみたり。
雑貨小物を扱う店では、
この夏の流行アイテムなんてなディスプレイを、
同じくらいに関心なかった知らなかった二人で ふ〜んと微妙な感慨にて見やったり。

 「小早川、何で夏なのにあのマネキンたちは襟巻きをしているのだ?」
 「さあ、ボクにもちょっと。」

冷房で冷えるからじゃないですか?なんて、
にっこり微笑って天然さんなお答えを返しているセナくんだったのへは、
何言ってますかとこっそり嘲笑しかかった店員さんたちも、

 “…う。”
 “何だなんだ。女子かよ、あれ。”

潤みの強い大きな目許、やんわりたわませた笑顔の愛らしさが、
小馬鹿にしかけた鼻っ柱を、やすやすと弾き返す恐ろしさ。
間違ってもなよついた少年ではないのだが、
一緒にいる相手があまりに剛の者なので、並んでいると相乗効果が働くらしく。
しかもしかも、

 「…今日は寄らぬのか?」
 「え?/////////

寡黙が過ぎての何とも無愛想に見えるその連れが、
だのに思わぬ拍子で何かしら…胸を打つような言動をするらしく。
例えば今の手短な一言も、
いつもだったらそのままひょいと曲がって向かう、
いつも覗いてるお店へと向かわないコースを取ろうとしたセナだったので。
おや 訝
(おか)しなことをすると、
気づいたらしき進だったのが、セナには意外でドキリと来た様子。

 「? 小早川?」
 「あ、え? あああ、あのいえ、その…。///////

制服姿じゃないのはお互い様。
Tシャツと薄手のパーカーに七分丈のパンツを合わせて来たセナの傍ら、
そちら様は麻のジャケットにアイボリーの綿のパンツという、
多少は砕けているけれど、それでもかちりと大人びたいで立ちが、
精悍な風貌によく映えている進さんという取り合わせは、
ともすりゃ随分と年上のいとこに連れて来られた坊やと見えなくもなく。
そんな自分の幼さを、あらためての自覚しもって、

 「あの…今日は辞めとこうって思って。」

いつもの順番でいいならば、
この先には子犬や仔猫を取り揃えたペットショップがある。
熱帯魚やら昆虫やら爬虫類やらとは支店を分けての、
むくむくと可愛らしいのばかりを取り揃え、
買うところまでには至らぬが、
それでも愛らしいのを見てみたい触れてみたいとする層の、
“見るだけ来店”でも快く受け入れているお店であり。
生後 間もないような柴犬やらチワワに、猫ならメインクーンやマンチカン。
まだまだよちよち歩きの可愛いの、
ついつい眺めたくての寄り道するセナだったのを、
進さんの方でも当たり前のこととして覚えておいでだったらしいのだけれど。

 「???」
 「あ、いやあの、だから…。」

相変わらずに寡黙なまんまの仁王様だが、
首を傾げつつもその目許を和らげたのは…微妙に困っておいでな彼だから。

 何でまた、今日に限って?

そうと訊いてると判るセナくん、
どうしようかとしばし戸惑ったものの、

 「あのあの、進さんは退屈なんじゃないかと思って。//////

先日、何とはなしにテレビを観ていたら、
女性タレントが、

 『ペットショップで子犬とか見て、
  やたら“かわい〜っvv”と騒ぐ女ってサイテー。』

などと言っていた。
その人は あくまでも

 “可愛いものへ感動出来るアタシって可愛いでしょ…という、
  いかにも作った素振りなのが鼻につく”

そういう方向での例として挙げてらしたのだけれども。

 『何でああまで“可愛い可愛い”って騒ぐかね』

あれって人目がなければきっとああまでは騒がないと思う…と言っていたのへ、

 “………………………え?”

セナとしては少々ギョッとした。
そんな見せびらかしてるつもりなんて自分にだってないけれど。

 「そうか、感性がすっかりと大人仕様になってる人は、
  心の中で“うん、可愛い”って認識するだけで済んじゃうんだって、
  今頃気づかされたような気がして。」

  そいで…あのあの。////////

 「進さんは本当は、子犬とか観る寄り道って退屈なんじゃないのかなって。」

子供のお守りじゃあるまいに、
関心のないことへまでお付き合いさせるのって、
そんなのいけないことじゃないかって思って、あのその。////////

 「……。」
 「〜〜〜。////////

だから、今日はペットショップに寄るのは辞めときましょうと、
そんな歩きようをしかかったセナくんだったらしいのだけれど。
真っ赤っ赤になってしまったそのまま、
心もち俯きかけてるセナへと向けて、


  「俺も、小さな生き物を見るのは好きだ。」
  「………はい?」


決して頼りない細い声じゃあなかったけれど。
周囲に満ちたBGMやら雑踏の声やら、
そんなざわざわした空気の中へ、
短い一言はするりと紛れてしまったから。
え?と聞き返しかけての上がったお顔を、待ってましたと待ち受けたのが、

 「俺も、子犬や仔猫は好きだと言った。」
 「あ…。////////

堅く強ばりかけてた肩がほぐれたのと同時、
すぐ傍らを、ちょいと強引に通り抜けようとした人に押されたセナくんへ。
転ばぬようにとしてだろう、頼もしい腕が延べられて。
そのまま懐ろへと、小さな連れ合い、引き寄せた進さんは。

 「正確に言えば、小さいものを見て嬉しそうな小早川を見ているのが楽しい。」
 「あ………。////////////////

間近になったセナくんへだけ聞こえるようにという言いようをしたのは、
これでも少しは、こういう場面での繊細な心くばりを身につけた彼だったか。
それとも…こんな甘い物言いなんての、
さすがに人並みに照れてしまった進さんだったからだろか。


  言葉が少ない進さんなのは、
  少なくとも、迷惑だからでも面倒だからでもなくて。
  言うときゃこんなことまで言えちゃう人だってことを…、

  “ううう…やっぱ、誰にも言えないったら。////////


独り占めするにはあまりに甘い、
朴念仁な彼とも思えぬ、大胆な睦言がぽろりと零れて。
でもでも人には言えない、ナイショのナイショ。

 「???」

どした?と小首を傾げた進さんの大きな手を取り、
何でもありませんようと、赤くなった頬のまま、
愛らしい仔猫の待つ方へ、たかたか駆け出したセナくんであり。


  ああきっと、進さんにキライなものなんてないのかも知れない。
  そう、ボクが何でも好きなうちは………ネ? ////////





  〜Fine〜 09.06.26.


  *あああ、結局は単なるバカップル噺になってしまいましたな。
   先生、なかなか勘が戻りません。
   つか、ウチの進セナってどんなでしたっけ?
   これで間違ってなかったでしたっけ?
   だったらだったで、
   はた迷惑な話ばっかり書き散らかしてたんですねぇ。
(笑)

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv *

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